いなごは、おなごに一目惚れした。
「お父さん、その麗しいおなごを嫁に下さい」といなごは結婚を申し込みに行った。
「虫なんかに娘をやるのは嫌だな」
「コガネ虫からもらった小判を千枚あげます」
「ふつつかな娘だがよろしく頼む」父はすぐに手の平を返した。
山奥のいなごの家におなごは連れて行かれた。
「私はどうすれば良いのですか?」
「私が死ぬまで山は降りないこと。ルールはそれだけだ」といなごは言った。「それより何か得意な料理を作ってくれ」
「はい」
おなごは得意料理の佃煮を作った。できあがったとき、なぜかいなごはいなくなっていた。
おなごは佃煮をお土産に家に帰った。
「うん、これは美味いイナゴの佃煮だ」と父母は喜んだ。
(遠野秋彦・作 ©2022 TOHNO, Akihiko)